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石垣に刻まれたマークに注目! 築城当時に思いを馳せながら楽しむ姫路城の刻印巡り

姫路城を支える石垣には、約50種類90個の文様や文字などが描かれた刻印が隠れているのを知っていますか?
これは石の提供者や石切り場などを表す印ではないかと言われていますが、何のために刻まれたか今だ謎に包まれたままです。
そこで、日本の城郭や姫路城の石垣、漆喰などの調査研究を行う姫路市立城郭研究室・学芸員の工藤茂博さんに、姫路城の刻印について教えてもらいました。
刻印巡りをしながら、築城当時を想像したり、何の印かを考えたり、思い思いの楽しみ方で城内を散策しませんか。

INDEX

1.

大手門

 

 
(大手門正面北側の石垣)

まず、大手門をくぐる前に注目したいのが左手にある石垣。一番上の石に斧(おの)の刻印を見ることができます。これは大正から昭和初期に行われた国道2号線の敷設工事のため、中堀を埋め立てた時に取り壊した総社門石垣の一部。1938(昭和13)年に大手門が建てられた時、かつては「斧(よき)の門」と言われていた石を再利用したものと言われています。一番目に付く場所になぜ、この石が置かれたのでしょうか?

 


(大手門裏の南側の石垣)

大手門をくぐって右手の石垣を見ると、目に留まるのが一列に並んだ長方形の穴。これは割りたい部分に沿ってノミで穴を掘り、鉄製クサビの矢を差し込み、上から叩いて石を割るために作られた「矢穴」です。穴を掘っただけの状態で残っているので、何らかの理由で、石を割るのを中止した可能性も。城内にはこのような矢穴が数カ所残っています。また、姫路城北にある「増位山」にも、姫路城石垣の石切り場跡があり、「矢穴」の跡が残る石を見ることができます。

 

2.

西の丸

 

 
(西の丸 化粧櫓西側の石垣)

地面に近い石に、「奈良村」と書かれた刻印を見ることができます。江戸時代、播磨周辺に「奈良村」という地名は存在しないことから、どの場所を指すかは不明。しかし、「播磨国風土記」に、夢前川流域を指す「巨智里(こちのさと)」を開発したのが「柞(なら)巨智」の一族と記されていることから、ここが起源という説も。城内の刻印の中で、文字が刻まれているのはこの石だけとレアなものなので、マニアックな人は要チェックです。

 

 
(西の丸 化粧櫓下)

コケで少し変色した石に描かれている星の刻印。これは五芒星(ごぼうせい)と呼ばれる陰陽道(おんみょうどう)の魔除けのマークで、化粧櫓の鬼門の方向に当たることから、ここで化粧直しをしていたとされる千姫を災いから守るために刻まれた印と言われています。一方、石の産地や大きさ、形などを分類するための一般的なマークという説もあり、なぜこの場所にあるのか、想像を巡らすのも楽しみの一つです。

3.

三国堀


(三国堀 石段)

姫路城主・池田輝政が播磨、淡路、備前の三国から人を集め、築いたと伝わる三国堀。堀へと下りる石段をよく見ると、3種類の刻印を見つけることができます。

 

 

4.

るの門


るの門(穴門) 石段

通路が目立たないようにと、石垣に穴を空けただけの「ぬの門」。かつてはここに扉があり、一段目の石をよく見ると、左右に扉を開閉していた時に付いた傷跡が残っています。側面の石の少し減った部分やずれた部分は柱があった跡。周囲の石には、痕跡が残っていることがあるので、じっくり観察すると、当時の様子を知るきっかけになります。

また、上へと続く階段には、長方形を二つ並べて線で結んだマークや漢数字などの刻印。長方形に加工された石に多く見られることから、石段に使用するためのマーク、つまり石材の種類を示す目印として使われていた可能性も考えられます。

5.

扇の勾配


扇の勾配(こうばい)

扇を開いた形に湾曲させて石を積み上げた「扇の勾配」は、反り返った曲線美が魅力。長辺を交互に重ねた算木積みの角部分の石の中にも、刻印を見ることができます。すぐそばの石垣にあるのは、眉毛と目、鼻がある通称「人面石」とも呼ばれている鏡石。侵入者をにらみつける魔除けのような意味があるのではないかと言われているそう。

 

6.

ぬの門


ぬの門(櫓門)西側石段

鉄板張りの強固な門として知られる「ぬの門」は二階建ての櫓(やぐら)を備えています。ぬの門に接続する「リの二渡櫓」へと続く階段にも、四角形を線で結んだ刻印を発見!

 

 

7.

りの門


りの門 下

解体修理中に軒天井板の裏面に「慶長四年」という墨書きが見つかり、城内で唯一、池田輝政時代以前に建てられたことが判明した「りの門」。門の真下に敷かれた石にも2つの穴が掘られた「矢穴」の跡がくっきり残っています。

 

 

8.

備前丸


備前丸 天守台石垣の角

黒い石に挟まれた真っ白い石は、割れていた石を昭和の修理の時に取り替えられたもの。よく見ると、石垣を修理した会社の名前が彫られています。最も新しい刻印を後世の人たちはどんな思いで眺めるのでしょうか。双眼鏡などを使うと確認しやすいかも。


備前丸 天守石垣

真下から天守を見上げる備前丸の天守台石垣に刻まれているのは、半円形が二重になり、三本の線が伸びる珍しい刻印。近くには加工した「矢穴」の跡が残る石も使われています。

刻印や矢穴は、登城ルート以外にも数多く存在。姫路城のさまざまな場所から、私たちに築城の歴史を伝えているのかもしれませんね。

 

 

9.

天守の庭


天守の庭

1956年~1964にかけて行われた昭和の大修理では、地盤沈下を防ぐため、地下に鉄筋コンクリートの人工地盤を築きました。その時、不要になった礎石を元通りに配置して、天守台を再現したのが「天守の庭」。中央2カ所にある東と西の大柱礎石には、中心に×印、周囲に計測した線が残っています。これは礎石の上に柱を乗せるための基準線です。また、石をよく見ると、気付くのは中央部分のくぼみ。長年、大天守を支えてきた歴史をひしひしと感じます。

 

人目にさらされることのなかった計測跡が残る石をじっくり見れば、築城に携わった人たちの職人技を感じずにはいられません。

 

天守を支える石垣に注目することで、違った角度から姫路城を楽しむことができます。石垣マニアにはたまらないレアな刻印もぜひチェックして!

 

【姫路城】

所在地

姫路市本町68番地

入城料

一般 1,000円

小・中学生、高校生 300円

開城時間

9:00~17:00(入城は16:00まで)

※夏季(4月27日~8月31日)は9:00~18:00(入城は17:00まで)

休城日

12月29日・30日

アクセス

姫路駅北口から神姫バス乗車「大手門前」下車徒歩5分

JR姫路駅、山陽姫路駅から徒歩20分

駐車場については下記のURLからご覧ください。

お問い合わせ先

姫路城管理事務所

079-285-1146

URL

http://www.city.himeji.lg.jp/guide/castle.html

 

【取材協力】

姫路市立城郭研究室 学芸員 工藤茂博さん

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