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2010/04号

地方都市の「いま」を象徴する、工場群に寄り添う海浜公園

(姫路市網干区)




 現実の社会は美しく、温かいだけでもないし、醜く、冷酷なだけでもない。両者はコインの表裏のように存在しているが、日本の現代社会を映像に取り込む場合もそれは同じで、澄み渡った清冽な水が流れる山間の川も、ゴミが散乱し異臭を漂わせる都市部の川も、均しく日本の川であるという現実からは免れない。

 たとえば東京のお台場や神戸のポートアイランドに都市の美しさを感じる人もいれば、どこか作り物めいたよそよそしさを感じる人もいる。恐らくはそのいずれもが正しく、そのいずれもが私たちを取り巻く今の日本なのだろう。

 前置きが長くなったが、姫路市の南西部に網干(あぼし)と呼ばれる地域がある。江戸時代には龍野藩、丸亀藩、天領に分かれ、戦前まで旧網干町の行政・経済の中心地として栄えたところで、今も随所に昭和レトロを感じさせる商家や町家が残っている。(ロケハン案内2002年10月号参照)

 その網干の市街地から南に下っていくと、視界が開け、いかにも新開地という風情が押し寄せる。かつての塩田の跡地で、今は緑道となって桜並木が続く塩田の澪(水路)沿いの道を進むと海に出、そこに「網干なぎさ公園」がある。

 近年整備された海浜公園で、親子連れが芝生広場でお弁当を広げたり、渚で水と戯れているが、前方の人工島には今年度に稼動予定のごみの焼却並びに再資源化施設からなる「エコパーク網干」の巨大な建物が見え、その手前にはプレジャーボートなどが係留されているボートパークがある。

 公園に築かれた丘に登ると、家島群島が浮かぶ瀬戸の海が望め、心地よい開放感を醸し出しているが、そこから左右を見渡すと空を突くような煙突がそびえる工場や、銀色に光るプラント群を擁した広大な工場が見て取れる。

 いかにも現代風な感じがする美しい緑に彩られた公園。その公園で憩いのひとときを楽しむ人々。砂浜が弧を描いて続く渚。目の前に浮かぶ人工島と頻繁に行き交うゴミ収集車。今日の暮らしの豊かさを象徴するような無数のプレジャーボート。公園を左右から挟み込むような工場群。穏やかに陽射しを照り返す瀬戸の海……。工業を産業基盤にした日本の地方都市の「いま」がここにある。

 これらを舞台に、ドラマや映像の送り手がどう切り込み、料理するのか、ちょっぴり楽しみな素材だといえるのではないだろうか。

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