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【圓教寺×杉本博司】常行堂で展覧会「五輪塔―地 水 火 風 空」を開催。室町の建物や平安の仏像、現代のアート作品が時空を超えてコラボ

姫路市立美術館が2021年~24年にわたって展開している「オールひめじ・アーツ&ライフ・プロジェクト」。
姫路の二大文化資産である姫路城と圓教寺をつなぎ、新たな姫路の魅力を国内外に発信するアートプロジェクトです。
今年度は世界で活躍している現代美術作家・杉本博司さんの作品展覧会を2022年8月31日(水)まで、
「五輪塔―地 水 火 風 空」と題し、圓教寺常行堂で展開中。
室町時代の建物、平安時代の仏像、現代のアート作品が時空を超えてコラボした展示を体感してみませんか。
今回は姫路市立美術館の学芸員・米田晴子さんに案内してもらいました。

INDEX

1.

圓教寺常行堂

〈三つの堂〉

 

西国三十三所観音霊場の巡礼者でにぎわう摩尼(まに)殿から西へ10分ほど歩くと、「三つの堂」があります。

ここは映画のロケ地としても有名な場所。

北には圓教寺の本堂に当たる「大講堂」、西には僧侶が学問や寝食の場として使っていた「食堂(じきどう)」、南には修行を行う「常行堂(じょうぎょうどう)」がコの字に並んでいます。

 

〈常行堂〉

 

「常行堂」は室町時代に建立された国指定重要文化財。

建物の北面中央にせり出した舞台があり、約20mの細長い楽屋が隣接しています。

向かい合って建つ「大講堂」の釈迦三尊像に舞楽を奉納するための場所で近年、歌舞伎や狂言、コンサートなどが開催されたことでも有名です。

 

〈常行堂内部〉

 

堂内中央には高さ約2.5mの本尊・阿弥陀如来坐像。

かつてはその周囲を、僧侶が阿弥陀仏の名前を唱えながら回るという修行が、90日間にわたって行われたそう。

薄暗い堂内に、開け放たれた木戸から心地よい風や光が差し込んでいます。

 

 

〈阿弥陀如来坐像〉

 

平安時代中期に仏師・安鎮(あんちん)が造ったと伝えられている木像の阿弥陀如来坐像。

材質はヒノキで、内部をそぎ落とし、頭から胴体まで、腹部側(前側)と背側(後側)が別材になっています。

背筋をまっすぐに伸ばし、足を組んで静かに佇(たたず)む阿弥陀如来坐像を、当時の人々も手を合わせ、拝んでいたのでしょうか。

 

 

2.

杉本博司さんと作品

〈杉本博司さん〉

 

今回、圓教寺とコラボするのは1948年、東京生まれの現代美術作家・杉本博司さん。

活動は写真や彫刻、インスタレーション、演劇、建築、造園、執筆、料理と多岐にわたり、さまざまなアートシーンで活躍する世界的アーティストです。

 

杉本博司≪光学硝子五輪塔 相模湾、海光≫2012/2011年                                

小田原文化財団蔵

©Hiroshi Sugimoto

〈光学硝子五輪塔〉     

                                                    

五輪塔とは、世界を構成する地・水・火・風・空の「五大」要素を、方形、円形、三角形、半月形、宝珠形で表し、順に積み上げたもの。平安時代中期の密教で始まったと言われています。

杉本さんは五輪塔を光学ガラスで作り、水を表す円(球)の中に、自身の代表作である「海景」シリーズのフィルムを封じ込めました。球体部分を覗(のぞ)くと見えるのは空、海、水平線。

国内では利尻島から撮影した日本海、天草で撮影した東シナ海などのほか、

ジャマイカからのカリブ海やテーブル岬からのバス海峡など、世界各国を訪れて撮影した景色を見ることができます。

 

 

 

 

3.

展示に込めた思い

Photo : Sugimoto Studio                                                                  

©Hiroshi Sugimoto

〈常行堂展示風景〉

 

展示会の前期となる今回は、普段非公開の「常行堂」(国指定重要文化財)で、

阿弥陀如来坐像(国指定重要文化財)と杉本さんの作品「光学硝子五輪塔」がコラボ。

空間全体を作品として体感してもらえるように展示しています。

「常行堂」の中心にある阿弥陀如来坐像を、ぐるりと囲むよう並ぶ18基の五輪塔。

その光景は、かつての僧侶たちが阿弥陀如来坐像の周囲を回りながら、修行をしていた姿にも重なって見えます。

 

〈新緑に映える五輪塔〉

 

一基一基に封じ込められているフィルムは世界各国の海を撮影しているのに、どの五輪塔を覗いても、見えるのは水平線が中央で二分する景色。

同じ構図にすることで、“古代人が見た海”も、杉本さん自身が幼いころ見た海も、世界各国どこから見た海も全て同じということを表現しています。

古代から現代まで、“海は変わらずそこにある”ということに気付くと、時間を超えて、過去と現在がつながったように感じられます。

 

 

 

 

 

4.

展示の楽しみ方

〈一直線に並ぶ五輪塔〉

 

展示期間中、三脚やフラッシュを使っての撮影以外は自由に写真を撮ることができます。

新緑をバックにした五輪塔や一直線に並ぶ五輪塔、仏像と五輪塔など、思い思いの映える写真を撮影してSNSに投稿してみては。

堂内の照明は、木戸から差し込む自然光のみ。

天気や午前・午後によって差し込む光が違い、時間によっても刻々と変化していきます。

何度も訪れて、その違いを見極めるのも楽しいかもしれませんね。

 

〈阿弥陀如来坐像と五輪塔〉

 

阿弥陀如来坐像のちょうど横に展示されている五輪塔を見ると、球体部分に仏像が逆さままになって、すっぽり収まっているように見えます。こんな一枚も狙い目ですよ!

 

〈二十五菩薩来迎図〉

 

あわせて見学したいのは、阿弥陀如来坐像の背後に描かれている壁画「二十五菩薩来迎図」。

今回の展示をきっかけに、約2.5mもの高さがある阿弥陀如来坐像を2日間かけて前方へ85㎝移動させたので、壁画全体がよく見えるように。

雲に乗った菩薩たちの来迎姿がくっきり描かれているのもお見逃しなく!

 

5.

後期展示

書寫山圓教寺常行堂 喜多流能楽師 大島衣恵                                                          

〈常行堂〉 

 

後期展示として9月17日(土)~12月4日(日)、「能クライマックス―翁 神 男 女 狂 鬼」を開催。

能の定番である「神男女狂鬼」に「翁」を加え、

各曲目の名場面を一つに結集した杉本さんの映像作品「Noh Climax」のインスタレーションが堂内に加わります。

この映像は「常行堂」はもちろん、姫路城各所を舞台に、

能楽師たちが桃山時代や室町時代の能面と装束を身につけて挑んだ作品。後期の展示もお楽しみに!

 

【圓教寺×杉本博司】

「五輪塔―地 水 火 風 空」

開催日:~8月31日(水)

時間:午前10時~午後4時(入場は午後3時45分まで)

場所:圓教寺 常行堂(兵庫県姫路市書写2968)

観覧料:一般 500円 / 高・大学生 200円 / 小・中学生 100円

※圓教寺には入山料500円、マイクロバス利用の場合は特別志納金500円が必要

※圓教寺まで書写山ロープウェイを利用する場合、片道大人 600円、小人 300円。往復の場合、大人 1000円、小人 500円。

問い合わせ: 姫路市立美術館 ☎079-222-2288

       書寫山圓教寺     ☎079-266-3327

 

取材協力:姫路市立美術館 学芸員・米田晴子さん

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